『ハァ…ハァ…』 宇宙空間の中で乱れる息。 それが白と青と赤に彩られた宇宙を漂う騎士のマスクの中の音であると分かるのはその音を発している本人のみだろう。 『…やったのか』 男は思う。 覚えているのは戦いに継ぐ戦い、そして『帝王』との最後の一騎打ち。 『そうだ。俺は奴を倒して…そして』 爆発があった。 滅びを迎えた帝王の最後の抵抗、それは母船もろともの自爆。いくつもの閃光が男の視界を奪い、その直後に受けた強力な衝撃波により男の記憶はそこで途切れていた。 『俺は生きているのか』 男は確認する。右腕も、左腕も、両足も身体も頭も…何も欠けてはいない。 五体満足だった。 『問題は無い』 そして安堵して地球を見る。 『そうか…俺はついに地球を守り通したんだ』 そう…眼下にある地球。男はその地球を、ひいては地球にいるあの少女を守るために誰にも理解されることもなく戦っていた。 そしてその長く続いた戦いの決着もついに着いた。 『…タケス、いるか』 『ら、ラーサ』 声に反応し宇宙を漂う瓦礫の中からサポートメカ『タケス』が現れる。 『お前も無事だったんだな』 見れば所々に損傷した箇所がある。…が、動作自体に鈍さは無い。 『おやっさんに連絡は取れるか』 『反応ナシ。通信機器ノ故障、アルイハ電波障害ノ疑イガアリマス』 『そうか、あれだけの爆発だからな。仕方が無いな』 彼はタケスの元にたどり着くと再び地球に目を向ける。 『まあいいさ。帰ろう茜さんの待つあの地球に…』 そういうと彼はタケスとともに進路を地球に向け、進みだした。 そう彼、時空の騎士テックメンこと剛田城二は地球に向けて帰還を開始したのだ。 ただし向かう地球が剛田の知るところの『あの地球』ではないということをまだ彼は知らなかった。 『…である。以上、これより戦闘訓練を開始する』 地球、日本、関東、東京都、そこはその廃墟となった都市郡。 「開始だとさ」 いくつかの注意事項等の説明も終わりいよいよ模擬戦も開始…というところなのにも関わらず鳴海孝之に覇気が無かった。 『糞虫、なんだその生返事は!?』 「別に…何でもねえよ」 ウンザリとした風に孝之は答える。 (茜ちゃん、やっぱり狙ってくるだろうなぁ) ここ数日、特に敵意を剥き出しにしてくる茜に孝之も辟易としていた。 (大人気ないっていうかなんつーか) かつて慕ってくれていた女の子のあの代わりように少し悲しくなってくる。 苛立ったり、悲しかったり、色々な要因で孝之は疲弊していた。 「仕事はキチンとやるさ。それでいいだろ」 『ふんっ、給料分は働け糞虫』 「わかってるよ」 『ああ、それとな。あの涼宮茜ってアホ。あたしが貰うから』 「ッはぁ?」 孝之も突然の言葉に大空寺の言葉の意味が理解出来なかった。 「お前、そういうシュミが…」 『アホかッ!!』 大空寺の罵声がスピーカーから響く。 『あれがアンタとなんの因縁だか知らんけどアイツはあたしがブチのめすっていってるのさ!』 「ちょっと大空寺、それは」 『他はお前に任す。アタシはアイツをいたぶる。今回はそういう分担だから』 「分担ってお前は俺に残り5機相手にしろって言うのか!」 『新米相手ならそれで充分』 「…ぐっ」 『あの涼宮ってヤツは多分単独で突っ込んでくる』 模擬戦も何も無視して鳴海孝之を自分1人で倒そうとするに違いない。 大空寺にはその確信がある。 『アタシがそれを止めるからあんたはとっとと回り込んで他をひきつけろや』 「あークソ。分かったよ」 孝之の中で茜と殺りあわずにすむ…という打算もあったのかもしれない。 「とりあえずいってくる。途中で遭遇したりしたらどうなるか分からないからな」 大空寺の提案をあっさり受け入れた。 そしてバーニアを噴かす。 孝之の機体は腰周りの跳躍ユニットの他にバックにもう一つ跳躍ユニットが追加され、さらに脱出機構を廃し背部にまでバーニアを取り付けた高速機動戦術機である。遮蔽物の多い市街地だということもあり孝之の操縦でなら新人相手の背後に回りこみ不意をつくくらいは不可能ではない。 (今は戦闘中。ただ動きただ撃ち倒す…それだけでいい) 再び思考のループを繰り返さぬよう心を殺す。 (行け『斑鳩』) そして孝之の戦術機『斑鳩』のバーニアから火が吹き、足が地面から離れる。 他方向に存在するバーニアのバランスを調整しホバリング状態での高速移動。遮蔽物の多いこのビル郡の中、孝之の姿は数秒と立たず大空寺の前から姿を消した。 「ハッつ、糞虫はガキのケツでもつついてくればいいのさ」 そう言いながら孝之を見送ったアト大空寺はマップを広げ敵の予想所在ポイントに目を通す。 「あのガキがメインで二人がサブ、アトの3人は援護射撃専門だったか」 近距離戦でならば茜相手、孝之の陽動が失敗して3人相手になったとしてもまったく問題なく戦えるだろう。だが遠距離からの攻撃は遮蔽物の多いこのエリアでも若干の危険は残る。 「糞虫が動いてからヤツラを分断する…か」 マップの茜と他のメンバーの間に赤い線が引かれる。 「さてと…あのアホ毛のガキ。糞虫ばかりでアタシを無視してくれちゃってさぁ」 大空寺の邪悪な笑みが漏れる。 「お仕置きしてやらないとね、タップリと」 そしてわずか5分後、大空寺のもくろみは成功することとなる。 1対1、1対5という非常にアンバランスな対戦という形で。 To Be Next Episode. |